hoinori

0で割ることは0を掛けることであることを述べています。

算学小筌にあるアルベロスの問題

線分AB上の点Cについて、|BC|=2a, |CA|=2bとし、BC, CA, ABを直径とする円をそれぞれ\alpha, \beta, \gammaとします。 3円に囲まれた2つの合同な図形はそれぞれアルベロスと呼ばれます。ここでは算学小筌にあるアルベロスに関する次の問題を考えます。 問題([1]). \delta\alphaに外接し\gammaに内接する半径dの円で、\varepsilon\betaに外接し\gammaに内接する半径eの円である。この2円が外接するとき、次式が成り立つことを示せ。 e=\dfrac{a(a+b)^{2}(b-d)}{(a+b)^{2}b-(a-b)^{2}d}.\tag1

解答

先ずは、この問題の解答を与えます。点Cが原点で点Bの座標が(2a,0)となる座標系で考えます。円\delta\varepsilonの中心の座標をそれぞれ、(x_d,y_d), (x_e,y_e)とします。\deltaの中心から\alpha\gammaの中心への距離の平方は

(x_d − a)^{2} + y_d^{2} = (a + d)^{2},\tag2

(x_d − (a − b))^{2} + y_d^{2} = (a + b − d)^{2}\tag3

となります。同様に\varepsilonの中心から\beta\gammaの中心への距離の平方は

(x_e + b)2 + y_e^{2} = (b + e)^{2},\tag4

(x_e − (a − b))^{2} + y_e^{2} = (a + b − e)^{2}\tag5

となります。\delta\varepsilonの中心の距離の平方は次式で与えられます。

(x_d − x_e)^{2} + (y_d − y_e)^{2} = (d + e)^{2}.\tag6

(2), (3), (4), (5), (6)からx_d, y_d, x_e, y_eを消去すると、次式が得られます。

\dfrac{ab}{ed}-\left(\dfrac{a}{e}+\dfrac{b}{d}\right)+\left(\dfrac{a-b}{a+b}\right)^{2}=0.\tag7

これをeについて解き、(1)を得ます。

(d,e)=(0,a)となる場合

直線を半径0の円,直交する図形を接する図形と考えることができることを以前に述べました。 hoinori.hatenablog.com hoinori.hatenablog.com これらを考慮するとき、2円\delta\varepsilonとして、(1)や(7)からどんなものが導かれるのかを考えます([2])。先ず(1)より次式を得ます。

a-e=\dfrac{4a^{2}b}{(a+b)^{2}b-(a-b)^{2}d}d.\tag7

これより、a=eからd=0を得ます。よって、\alpha=\varepsilon\deltaは点円か直線です。\delta\alpha\gammaに接するので、点B, 直線ABBにおける\gammaの接線のいずれかと一致すると考えられます。これらを下図では\delta_1, \delta_2, \delta_3で表しています。ただし、\deltaは点または直線なので、問題文にある「内接する」と「外接する」は単に「接する」と読み替えています。

(d,e)=(b,0)となる場合

同様に、(d,e)=(b,0)となる場合を考察します。この場合には、\beta=\deltaで、\varepsilonは点円か直線です。\varepsilon\beta\gammaに接するので、点A, 直線ABAにおける\gammaの接線のいずれかと一致すると考えられます。これらを下図では\varepsilon_1, \varepsilon_2, \varepsilon_3で表しています。

(d,e)=(b,a)となる場合

さて、(7)より次式を得ます。

\left(\dfrac{a}{e}-1\right)\left(\dfrac{b}{d}-1\right)=\dfrac{4ab}{(a+b)^{2}}.

これより、次式を得ます。

\left(\dfrac{a}{e}-1\right)=\dfrac{4ab}{(a+b)^{2}}\Biggr/\left(\dfrac{b}{d}-1\right).

ここで、\dfrac{w}{z}=0w=0またはz=0が同値であることに注意すると、a=eからb=dが導かれます。すなわり、\alpha=\varepsilonなら、\beta=\deltaとなります(下図)。

[1] 牛島盛庸, 算学小筌, 1794, 東北大学デジタルコレクション.

[2] H. Okumura, The arbelos in Wasan geometry: a problem in Sangaku Shosen, Sangaku J. Math., 5 (2021), pp. 39-42. https://www.researchgate.net/publication/354854485_The_arbelos_in_Wasan_geometry_a_problem_in_Sangaku_Shosen