以前に直線の半径が0であることを述べました。 hoinori.hatenablog.com 今回はこれを用いる例を述べます。事の発端は角田利勝による次の図に関する算額題です[1]。 これは Sangaku Journal of Mathematics という和算の幾何学に焦点をあてた雑誌に2017年に掲載されました[3]。問題は $r$ を図の小円の半径,$a$ を正方形の一辺とするとき,$r=4a/33$ を示せというものです。
和算の幾何学の問題では図形の内側へ内側へと内部に入って行くという傾向がありますが,これとは逆に図形を外部に広げて考察すると,面白いことに出遭うことが多いです。このことを念頭に置いて問題の図を考えて得たのが下図です。この図で $\gamma_3$で表される円が問題の小円です。
ここで,緑の円 $\delta_n$ の半径を $d_n$ とすると,次の定理が成り立ちます[2]。
定理. $d_n=\dfrac{a}{n}$ である。
この関係は $n=1, 2$ の場合には図を見て納得できますね。問題は $n=0$ のときです。この場合は $\delta_0$ は直線 $AB$ と一致します。直線の半径は $0$ ですが,$1/0=0$ より,定理の式においてもめでたく $d_0=\dfrac{a}{0}=0$ となります。
この例のように,和算の幾何学の問題は0除算を導入することで,さらに発展的に考察できるものが多いです。今後も簡単に記述できるものがあれば,紹介する予定です。
おまけ。円 $\gamma_n$ の半径は $\dfrac{4a}{4n^{2}-4n+9}$ となります。
参考文献
[1] 埼玉県立図書館 , 埼玉の算額, 埼玉県立図書館, 1969.
[2] H. Okumura, Solution to Problem 2017-1-6 with division by zero, Sangaku Journal of Mathematics, 4 (2020), 73–76. http://www.sangaku-journal.eu/2020/SJM_2020_73-76_Okumura.pdf