$ab=一定$ の関係がある場合には $a$ と $b$ の一方が $0$ になると,他方も $0$になることを積が一定の法則と勝手に名付けました。この法則ゆえ,$ab=一定$ の関係は $a=\dfrac{1}{b}$ という形で表現すべきというのが,私の主張です。この分数を用いた形で表現すれば,$a=b=0$ のときも $1/0=0$ より等式が成り立つからです。これは,$ab=1$ を満たす2数を逆数とする現在の定義を $a=\dfrac{1}{b}$ を満たす2数を逆数と呼ぶように改めるべきという主張と通じます。
さて,この法則の実例を今回も挙げます。和算の幾何学に下図のような菱形とその内接円を考えた問題があります。
菱形の1つの頂点を $A$, その隣の2頂点を $B$, $C$ とします。辺 $AB$, $AC$ 上の点 $P$, $Q$ に関して $PQ$ が内接円に接しています。このとき,$BP$ と $C{Q}$ の長さ(赤の部分)を $p$ と $q$ とし, $B$ と内接円の中心 $O$ との距離(緑の部分)を $r$ とします。すなわち,$p=|BP|$, $q=|C{Q}|$, $r=|BO|$ です。このとき以下が成り立ちます。 $$ pq=r^{2}\tag{1} $$ ただし,$P=A$ のときは $Q$ は 内接円と $AC$ の接点とします。同様に $Q=A$ のときは $P$ は 内接円と $AB$ の接点とします。(1) は $P$, ${Q}$ が辺 $AB$, $AC$ 上になく,それらの延長上にあるときも成り立ちます(下図)。
ここで,$P=B$ の場合を考えます(下図)。勿論 $p=0$ です。
このときは ${Q}$ が存在せず,$C{Q}$ に相当する線分は $P$から内接円に引いた接線に平行な半直線になります。半直線の長さは $0$ であることを以前に述べました。
よって,$q=0$ となります。ですから (1) は $p=\dfrac{r^{2}}{q}$ という形で表現すれば,$1/0=0$ よりこの場合にも成り立ちます。